お知らせ

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2019.03.01 コラム サラリーマンが会社を買うというブーム

先日、NHKラジオのニュースの中で、M&Aセンターが主催した「後継者がいない優良な小規模企業・個人事業を買いませんかというイベント」に約1000人のサラリーマンが参加したという話題が紹介されました。主には定年等で退職したサラリーマンが〝いつかはやってみたかった小規模な会社・商店を自分がトップ(または一人)でやってみたい〟ということで、イベントに参加した方がとても多かったようです。確かに、自分の許されたお金の範囲で夢を実現したいと考えることはごく自然なことです。ただ、日々 M&Aの仲介業務をしているものの立場で考えると、仮に〝業績が良い会社や商店を買い取る〟ということであっても、会社や事業を買い取ること自体、とても多くのリスクがあり、そのことを承知して決断しないと、後々 大変な苦労を背負うことを知っておいてほしいと思い、今回は、「スモールM&A(※一般的にこう呼ばれているようです)」のリスクに的を絞って、警鐘を鳴らしたいと思います。

 

一般的なスモールM&Aでは企業の譲渡・買収額の目途を1億円以下(実際には数百万円から数千万円)、対象企業・商店の年商は1000万円~3億円程、従業員数は最大でも30人程度となっているようです。

 

スモールM&A でサラリーマンが買い取る側のリスクとして、特に挙げるとすれば下記のリスクだと思います。

「会計のことはどうも…?」と言う方、決算書などの基礎的な知識がない方は、たぶん会社・商店の経営には向いていません。経営においては、売上を確保すること以上に、仕入代金の決済、諸経費の支払、借入金の返済を確実に行うこと、つまりは間違いのない資金繰りをすることが信用を確保するうえで必要不可欠です。一般的には銀行借入も必要となりますので、会社・商売の状況を説明できないと困ります。会計が不得手だという場合は、取得する企業・商店に、しっかりした会計がいるかをチェックしておくことが絶対必要です。

帳簿に計上されている保有資産(売掛金・棚卸資産・固定資産等)が、実態価格を反映しているか、また帳簿に計上されていない負債(簿外負債)がないかの確認が必要不可欠です。一般的には仲介に専門家が入って財務の調査報告書を作成しているケースがほとんどでしょうが、その企業・商店の資産負債を専門家が100%保証できるものではありません。その企業・商売が売りに出された理由や、これまでの商取引・銀行取引等の経緯等から総合的に判断し、資産の棄損・不良化、簿外債務をしっかり確認すべきです。もし不安があるようなら、事前にリスクを回避する買い取り方式を選択することが必要不可欠です。

企業・商店の買取りと一緒に土地や建物を取得する場合は、土地や建物の権利者の確認、担保の設定や賃貸契約の有無 及びその経緯・詳しい内容を知っておかなければなりません。よくわからない場合はそのままにせず、専門家にも相談することが必要です。

隠れたリスクとして「係争中の事案を抱えている」「法令違反」「不正な会計処理をしている」等のリスクがあります。心配な場合は、最終の契約をする前に信用調査会社に調査を依頼したり、諸リスクを回避できる買取方式での買取りを選択したりすることが肝要です。

商取引先(販売先・仕入先)、現株主、金融機関、従業員 等との関係が良好か?は非常に重要です。もし、これらのうちどれか一つでも問題があるとすれば、慌ててこの企業・商店を買い取るべきではないでしょう。勿論、全てについて諦める必要はありませんし、十分に調査・検討した結果、この「問題箇所」が対処できる範囲であれば大丈夫です。

最後に資金不足のリスクです。経営をするということは予想以上に資金が必要です。TKCの平成30年の全企業のデータのうち、売上規模0.5億円未満の全企業96,977社の平均で見てみると 必要運転資金は売掛金平均(2,250千円)+棚卸資産平均(1,777千円)-買入債務平均(974千円)=3,053千円となり、約3百万円の資金が常に必要であり…、また売上規模1億円~2.5億円の企業の場合は売掛金平均(17,742千円)+棚卸資産平均(10,603千円)-買入債務平均(9,354千円)=18,991千円となり、約20百万円の資金が恒常的に必要であるとしています。加えて、普通は月商程度の現預金は常に持って置くべきでしょうから、企業・商店を買いとったと同じくらいの資金が別途必要だということを頭に入れておかなければなりません。

 

最後にひとこと…、上記リスクには入らないと思いますが、仮に55歳から65歳で退職された方の場合、早ければ数年以内に、遅くも二十年先には、今度は自分が、その事業を閉めるか、第三者に譲ることを考えなければならないことが、(買い取った時点から)決まっています。仮に事業が思いのほかうまく行けば、自分の息子や娘に事業を譲りたいと考えるのが普通です。ただ、その子供たちがその事業を引き継ぎたいか(?)は分かりません…。または誰か別の経営力のある人を見つけて事業を継承してもらうこともあるでしょう。これについては、全く未知数です。一方、手に入れた事業がうまく行ってない場合は、いままで掛けたお金は消え、さらに多額の負債を抱えたままの撤退となるかもしれません。実務上で申し上げれば、失敗時の廃業は容易ではなく、想定以上に苦労すると思います。

 

一時的ブームや安易な思い付きでなく、落ち着いてその道の専門家や 同業の知り合い等に相談し、上記リスクを踏まえ、決断することが大切だと思います。