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2025.10.24 コラム 高市自維連立政権発足 ~ 経済動向予測(日本経済新聞朝刊より)~

 自民党の高市早苗総裁は21日、衆参両院の本会議で第104代首相に指名され高市内閣が発足した。初閣議で物価高に対応する経済対策の策定を指示した。秋の臨時国会で経済対策の財源の裏付けとなる補正予算案を提出する。
 高市首相は新内閣発足後の記者会見で、経済対策に関しては「手取りを増やし、家計の負担を減らす」と訴えた。ガソリン税の旧暫定税率を「速やかに廃止する」と言明し、冬場の電気・ガス料金を支援するとも打ち出した。地方自治体への重点支援地方交付金の拡充、国・自治体と民間企業の間での請負契約単価の物価上昇を踏まえた見直しなども盛り込む。所得税の基礎控除などをインフレの進展に応じて見直す制度設計も年内をめどに取りまとめる。一方で、自民党が参院選公約に盛り込んだ現金給付は参院選で理解を得られなかったとして実施を取りやめる。中所得者の負担を軽くする「給付付き税額控除」の導入については早急に制度設計を進めて実現を図る方針を示した。特定の目的を達成するために減税する「租税特別措置」(租特)の状況を点検し、政策効果が低いものは廃止する
 成長戦略は、社会課題やリスクに対する「危機管理投資」を中心に取り組むと説明した。食料安全保障やエネルギー安全保障への投資を挙げ、経済最優先を掲げた。
 市場では日銀の金融政策をめぐる首相の姿勢に注目が集まる。首相は「日銀と連携を密にし、意思疎通を図っていく」と話した。政府と日銀が13年にまとめた共同声明(アコード)は「今の段階で直ちに見直すことは考えていない」と語った。

 高市早苗政権の発足を前に、20~21日の日本株市場で再燃した「高市トレード」。日経平均株価は連日で最高値を更新したが、債券市場では歴史的な金利上昇局面は一服している。国内債が売られて金利が上昇する債券版「高市トレード」が収束に向かった背景には、財政拡張の思惑の後退がある。 
 まずは人事。高市首相は21日、財務省出身の片山さつき氏を財務相に充てる人事を決定した。野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「為替や債券市場の安定やプライマリーバランス(基礎的財政収支)を重視し、バランスの取れた財政運営をするのではないか」とみる。また、自民党幹事長に麻生太郎元首相と関係の深い鈴木俊一元財務相が就任。『財政規律派』が要職を占めるようになったことで、債券市場に安心感が広がっている。
 財政政策も、当初見込まれていたよりも抑制的になるとの見方が多い。連立樹立にあたって維新が自民に要求した12項目のうち、2025年度の補正予算で賄う必要があるのはガソリン暫定税率の廃止と物価高対策の2項目のみとの見方がある。自民党が物価高対策で掲げた現金給付は中止、財政負担が大きい消費減税は引き続き検討となった。大和証券の浜田浩史経済財政・クレジットアナリストは「高市首相が重視する投資立国などの財源を含めても補正予算の規模は24年度から2兆~4兆円程度の増加にとどまる」との見方を示す。
 その財源を必ずしも国債増発で賄わなければならないわけではない。「前倒し債」が潤沢だからだ。前倒し債とは、国債の借り換えに備えて毎年の発行額を平準化したり、税収の下振れなどの不確定要因に備えたりするもの。みずほ証券によると、25年度初め時点で30兆円超が積み上がっている。運用は財政当局に委ねられているものの、市場では「取り崩して財源を確保することが可能」(みずほ証券の丹治倫敦チーフ債券ストラテジスト)との見方が出ている。
 もっとも、今後金利が騰勢を強めるリスクも残る。自維連立は衆参両院で議席が過半数に届かない少数与党。野党との協力過程で、追加の財政支出が取り沙汰される局面も想定される。政治動向次第で財政拡張が進むかは目を凝らす必要がありそうだ。
(日本経済新聞朝刊2025.10.22より抜粋)

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